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予感の背景 

 私の姉は猫だった。
といっても、むろん、我が母上が私を産む前に、雌の子猫を産んでいた…という訳ではない。

 私が小学校中学年ほどだった頃、片手の平になんとか乗るほどのサイズだった彼女は、両親の工場の職人さんが出先で食べているお弁当につられ、空腹でふらつきながら寄ってきたそうだ。この時、わけてもらった蒲鉾と卵焼き、両方の匂いをかいでから蒲鉾だけを食べたというのが、彼女の作った最初の伝説となった(非常に食い道楽な猫だった)。
 当時はペット禁止だったときく我が家に、両親達が彼女を迎えようと考えた理由ははっきりとは聞いていない。しかし、鍵っ子生活をしていた子供達の遊び相手にと考えたのだろうとは思う。
 彼女は、ウチの両親達の思いに応え、子供達が帰宅する時には必ず玄関で出迎え、たまに鍵を家に忘れたまま学校に行って帰宅した鍵っ子どもが「ニャーニャー言ってんと開けてくれ~」と言ってもあくまで玄関内で出迎え、行儀悪くうつぶせに寝っ転がって本を読むガキどもの背中を温め、家族の一員として18年を過ごした。

 さて、彼女は、私が子供の時に我が家の一員になった。私としては、当然、妹ができた認識でいた。しかし、この妹の成長は私より早かった。
 一年でも十分、二年も経つと完全に、敵は成熟個体となったが、当方は人類なので二年が経っても(多少は育っても)依然、未熟個体のままだった。そこで、彼女はどういう訳か、自分の方がランクの高い個体であり(犬ほど階級意識をもつ生き物ではないはずだが、行動を見るとそう思っていたとしか思えない)、不出来な未熟個体を教え導くべきというような自覚を持つに至った、、、ようだった。彼女の認識では、この不出来な未熟個体ときたら狩猟の一つもできない困った奴、だったのかもしれない。

 そうして、ある夜の彼女は考えた(多分)。不出来で未熟な妹に、プレゼントをしよう、と。
そして、私にとっては不幸な事に、当時の我が家にも「あれ」がしばしば出没していた。。。


 ある朝、我が子の悲鳴で起こされた両親にも災難だっただろう。
しかし、目覚めた枕元に羽がむしられ半ば分解された黒い昆虫がおいてあったのだ。悲鳴をあげても仕方なかろう。

 …せっかくのプレゼントだったのに、あげた当人にはとんでもなく嫌がられ、親達にこっぴどく叱られてしまったお姉様は不本意だったようだ。

 彼女は、二度とプレゼントをもってくることはなかった。。。
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[ 2006/11/10 00:26 ] 猫便り | トラックバック(-) | コメント(-)












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