もちろん、イヌは可愛い。我が家にも可愛いのがいた。しかし、忠実で愛情深い人類の伴侶は、あくまで「犬」である。うっかりすると、罵倒語として「犬」が使われてしまうほどの、文明発生以前から人類の友である生き物は、犬、なのである。上記にあげた
ちょちょんまげ氏でもVodkaDrive氏でもないが、もしかして勘違いしている犬派がいるのではないか、と、近頃、二つばかり見た報道で少し心配になってきているのだ。
2011/01/05 19:20 共同通信「
オオカミ輸入して有害獣を駆除 大分・豊後大野市が検討」
農作物に大きな被害を与えるイノシシやシカなどの有害獣対策として、大分県豊後大野市が、国内では絶滅したオオカミを輸入して駆除に利用するユニークな構想を検討している。同市は「有害獣に食い荒らされて荒廃した森林の生態系回復にもつながる」と期待するが、自然界での管理の難しさから慎重意見も根強い。(後略)
オオカミによるシカなどの食害対策については、梨さんが「
僕がオオカミ再導入を支持しないわけ - ならなしとり」にてご指摘だし、この報道でも「イエローストン国立公園や欧州では牛や羊などの家畜を襲う事例が報告されている」『自然環境研究センターの常田邦彦研究主幹は「オオカミは行動範囲が広く個体管理が難しいなど懸念材料が多い」とする』と批判が紹介されている。また、12月30日付『
オオカミでイノシシ駆除、計画に「危険」指摘も : 社会 : YOMIURI ONLINE(読売新聞)』でも、
一方で、計画を疑問視する声は強い。大分県環境保全審議会委員のNPO法人・おおいた生物多様性保全センターの足立高行理事長は「元来、生息していない動物を持ち込み、生態系が崩壊した例は数多い」と指摘する。沖縄では、ハブの駆除のため、マングースをインドから持ち込んだところ、天然記念物のヤンバルクイナなどの被害が相次いだ。
また、環境省野生生物課も「オオカミが人や家畜を襲わないという証明はされていない」としており、豊後大野市に隣接する竹田市で60頭の肉牛を飼う畜産業釘宮永路さん(50)は「牧草を食べに頻繁に現れるシカやイノシシを追い、オオカミが人里に下ってこないか」と表情を曇らせる。
と批判されている。導入側は、
市では地元の猟友会に依頼し、今年、シカ約330頭、イノシシ約500頭を駆除したが、繁殖による増加に追い付かず、食害は一向に減らない。
今回浮上したオオカミの投入計画は、獣医師や大学教授らで作る「日本オオカミ協会」(東京、240人)が提案しており、橋本祐輔市長らが今年に入り、「対策の切り札にならないか」と検討を始めた。国内に実例はないが、協会には四国の自治体などから問い合わせが入っているという。
(略)
協会によると、イエローストーン国立公園では、かつて1万3000頭に上るシカが9000平方キロの植樹を荒らしたため、オオカミ31頭を放った。その結果、シカは一挙に6000頭減った。野生生物の保護にも詳しい同協会会長の丸山直樹・東京農工大名誉教授は「オオカミの捕食効果は大きい。習性上、人を襲うことはまずない」と話す。
(略)
しかし、ほかに有効な対策を見いだせない実情もあり、橋本市長は「十分議論を重ね、計画の実現を模索したい」と話している。
なんてことになっている。「
広さは約9000平方キロで四国の約半分に相当」というイエローストーン国立公園の成功事例をもってくるのは、無茶だと思うのだが。
ここで名前の出た「
日本オオカミ協会」のホームページを確認するに、「
オオカミが人を襲わない!」と、熱心に主張しているようだ。
Q6.オオカミは人を襲うか
健康なオオカミはまず人を襲いません。襲ったという記録の多くは単なる伝聞・伝承であり、具体的な根拠のあるものではありません。
かつてのわが国では、オオカミは人を襲う動物とは民衆に認識されておらず、むしろ農作物を荒らすシカやイノシシを退治してくれる益獣とみなされ、神として祀る神社が今も残されているほどです。
(略)
ヨーロッパやアメリカでも、正確な報告として健康なオオカミが人を襲ったという事例はありません。
(略)
つまり、健康なオオカミが人を襲うというのはまったくの作り話なのです。
「健康なオオカミは人を襲わない」という主張に対しては、
梨さんが反論エントリを上げておられる訳だが、わたしがこの文章を読んだ時に考えたのは、じゃ不健康なオオカミだったら?である。
日本は確かに、1957年以降に狂犬病の国内感染例はない。しかし、中国や東南アジアはじめ、世界の大部分は狂犬病の発生国であり、狂犬病ウイルスはほとんど全ての哺乳類に感受性があると報告されているので、禁輸や検疫システムで防いでいても侵入の危険は常にある。人の場合でも、
2006年にもフィリピンから帰国後に狂犬病を発症した事例がある。
つまり、導入したオオカミが、あとから人を襲うたぐいの不健康を身につける場合もあるだろう。
また、人的被害が無いとしても、それだけで安全宣言されてもね。
<人身害ゼロ、牛など家畜被害発生:補償で対処>
オオカミによる家畜の捕食は肉食類の復活につきものの中心的な問題である。ここでも、羊、七面鳥、鶏が被害にあっているが、中心は牛である。これらの被害に対して州政府は金銭補償をしている。2002年は牛一頭について602ドルであった。猟犬も殺される。
「補償で対処」って、えらい気軽だ。庭先につないでいた飼い犬が被害に遭う事例もあったはずだが、うちの子の被害が金銭補償ですむものか?
現在行なっている調査は、日本に再導入するオオカミの供給源候補に予定しているモンゴルのオオカミの食性調査です。(略) 現存するオオカミの中で最も日本のオオカミと遺伝的に近いため、再導入個体の供給源としても最も適していると考えられます。
そのモンゴルのオオカミが主に捕食しているのは、アカシカやウマなどの大型の有蹄類とマーモットという中型のげっ歯類です。モンゴルのオオカミの主要餌となっている種と同じような体サイズの野生動物が日本には多く生息していることから、モンゴルのオオカミが日本にやってきても餌に困ることはなく、生態系にとっても都合が良いと考えられます。
…ん???ちょっと待て。
モウコノウマは野生群絶滅の筈だぞ。生き残りがいるor復活プロジェクトが動いているとしても、たいした頭数がいるとは考えられない。ということは、導入を検討している動物の主に捕食している食材リストの上の方に、家畜がいることになる(^^;
それやこれやで、なんだか「ボク達はオオカミにいて欲しいんだ」という思い込みが先行してないかと、疑惑をもつのだ。そこには「オオカミは人に害を与えない、害を与えないでくれるに違いない」という思い込みの気配が感じられてならない。
そして、その思い込みの根拠は…?と推測してみるに、狼の親戚、よく似た容姿をもった人類の伴侶の存在が無関係だろうか?という疑惑をもつにいたったのである。
一方では、こんなのも見かけた。
長年、新潟県でツキノワグマを研究してこられたグループの代表も来て下さいました。以前、山で酔っぱらって寝ていたら、顔をペロペロなめるものがあり、目が覚めたらクマだったというお話を、ニコニコしながら披露してくださいました。一同、犬のなかまであることを納得しました。
それ、犬の仲間ぢゃないから。
こんなのを見ているうちに、なんだか犬(のイメージ)故に、一定のサイズがある/ある程度以上犬に似た容姿をもつ他種哺乳類が、人に対して親切という幻想をもつ人が発生するのではないか?という仮説を立ててみたくなったのだ。今後、裏付けする事例や反例を探していきたいと思う。
なお、例えばネコ派の場合、猫に似た大きな動物を人間の都合で連れてきて放せば人間の役に立つ、等とはまず滅多に考えつかないであろう事は附記しておきたい。
…ご主人様達が、たまたま自分がそうしたかった時以外、下僕に都合よく動いてくれるなんて筈無いじゃないのよ。
*このエントリは冗談ですって、やっぱお断りを入れておいた方がいい?