議論を呼んでいるのを知っていたし、議論の流れも大まかに追ってはいたが、その映画そのものには有り体に表現してしまうと積極的な関心はなかった。だが、こんな状況には注目せずにはいられない。
2010年6月5日付で、『
asahi.com(朝日新聞社):イルカ漁映画「ザ・コーヴ」 抗議活動で次々と上映中止 』
和歌山県太地町のイルカ漁を扱った米映画「ザ・コーヴ」の一般公開が、保守系団体の抗議予告を受けた各映画館で次々と中止に追い込まれている。(略) 映画を「反日」「虐日」と糾弾する市民団体が、「4日正午」と日時と会社の住所を明示し抗議予告を出したのは2日。この団体は、従来の右翼と違う「保守系市民グループ」と呼ばれ、ネットを駆使して抗議活動への参加を呼びかけるのが特徴だ。警視庁は抗議活動に警戒態勢をとるが、同庁幹部は「正規に申請されたデモで、違法行為はない」としている。 運営会社では3日に会議を開き、上映を自粛。映画館や配給会社にはこれまでも上映中止を求める電話やメールが相次いでいた。上映予定26館のうち3館が中止を決め、残りの映画館の中には「推移を見守る」と上映に慎重になっているところも多い。 この動きに対し、メディア批評誌「創」の篠田博之編集長(略) は「こんなことがまかり通れば、賛否ある作品はすべてつぶせることになってしまう」と語る。(略) 賛否ある作品上映をめぐっては2年前、「靖国 YASUKUNI」に「反日映画」と右翼団体員などが抗議。封切り5館のほか上映を自粛する劇場が相次いだ。
またかよ、とガックリ。
この上映中止問題の経緯は、2010/06/03付で『
特報「ザ・コーヴ」上映中止問題 - まどぎわ通信(跡地) 』が報道を時系列で一覧にまとめてくださっている上、上映中止の報道もそれぞれご紹介くださっている。で、今回の
「保守系市民グループ」とは、主権回復を目指す会 だという
(『桜井誠氏も「主権回復を目指す会/NPO外国人犯罪追放運動/せと弘幸Blog『日本よ何処へ」呼びかけのこの件をブログに掲載していたのは確認 』) 。『
まどぎわ通信(跡地) 』さんは、
構図は2008年に生じた「靖国 YASUKUNI」上映中止問題とまったく同じです
とお書きなのだが、
2年前にドキュメンタリー映画「靖国 YASUKUNI」の上映中止が相次いだ際は、街宣活動実施後に中止が決定されたが、今回は抗議活動の予告だけで中止の動きが広がり、表現の自由の萎縮(いしゅく)を懸念する声が上がっている。
という事態で、前回よりも自粛が素早いようだ。
この毎日の報道で紹介される時系列は以下のようだった。
今年3月、ザ・コーヴの配給会社「アンプラグド」(東京都目黒区)に、ある団体から電話が入った。この団体は、首相の靖国神社参拝を求める活動などをしている。電話は、米アカデミー賞で長編ドキュメンタリー賞を受賞した時期に重なる。 4月になると、社長の自宅前や事務所の周辺でマイクを使った抗議活動が早朝から行われるなど、抗議活動がエスカレート。同社は抗議活動の中止を求める仮処分を東京地裁に申請し、認められた。
先にリンクを張らせていただいた「まどぎわ通信(跡地)」さんのまとめによると、地裁の仮処分決定が5月11日。その後、動きはなかったのだが。
中止のきっかけは、この団体がホームページで今月2日、上映を予定していた「シアターN渋谷」や同館を運営する出版取り次ぎの日本出版販売(東京都千代田区)に対する街頭宣伝や抗議活動の実施を予告したことだった。3日に中止を決めた同社は「観客や近隣への迷惑がかかる可能性があり、上映を中止した」と理由を話す。 また、4日に中止を決めた東京の「シネマート六本木」と大阪の「シネマート心斎橋」を巡っては、両館を運営する「エスピーオー」の関連会社に対し、5日に街宣活動するとの予告があった。エ社は「関係各所に迷惑をかける可能性があるため」と中止を決めた。関係者は「自宅への抗議が中止の大きな要因になった」と明かす。
ここで、この手の「保守系市民グループ」の動向を注目してきたものの一人として、もうちょっと頑張れば…と思わず思ってしまうのだ。というのは、先に
エントリにした尻尾切りの件 があるからだ。そりゃ、押しかけられるのは大変だろうとは思うのだが、告訴といった手段に訴えることに効果がある様子だったというのに、と思うとやはり残念に思える。
この上映中止に関し、かの
「よーめん」氏がブログにこう書いていた (改行は適宜改変、強調等も省略) 。
これが有り得たのは西村氏のやり方がよーめん推奨の正統派右派系保守の市民団体の活動方法だからなのです。 市民団体はやり方一つで結果を出せるんだ!という見本のような抗議方法なのです! 主権回復会の抗議やよーめんの過激な煽りに批判的だった人 よーく、現実を見てください。市民団体があのやり方以外に結果を出す方法は無いのです。 かなり前から言っている事ですが、他の右派系保守は西村氏の戦術を徹底的に研究し真似るべきです。結果を出すには、あれ以上でもあれ以下でもダメなのだと。あれしかないのだと。 過激なように見えてもまったく合法というところがポイント
「尻尾切り」の件、「合法」にこだわる様子。上映に抗議する側がそういう方針なら、映画館側も対処のしようはあっただろうにと思えてしまうのは外野の無責任さではあろうとは思うのだが、でもやはり映画館側には踏ん張って欲しかった。。。この様子だと、また同じことが何度となく、深刻化して繰り返されるのではないだろうか。
その主権回復を目指す会の代表は、こういった発言をしていたと報じられている。
西村代表は、上映中止を求める街宣活動も憲法で保障された言論の自由に値するとしています。
この団体の代表の男性は取材に「欧米白人の人種差別映画に屈することはない。表現の自由など関係ない 。今後も抗議は続ける」と語った。
西村代表にとっての「表現の自由」や「言論の自由」は、誰にでもあるものではないようだ。
そして、
映画を配給するアンプラグド・加藤武史代表:「反日的だとか、人種差別をしているなど、まだ見てもいない情報で勝手に決めつけて映画館に中止を迫る。表現の自由を完全に侵している」
この件、二日前に「
The Associated Press:Dolphin hunt film canceled in Tokyo after protests 」でも報じられており、6月4日付のAFPで「
Japan screens controversial film 」として配信されたようだ。
Unplugged Inc said it had cancelled one screening scheduled for June 26 at a theatre in Tokyo, after Japanese right-wingers - known for their ear-splitting street protests using loud megaphones - targeted the cinema. Staff at the cinema had been harassed, the distributor said, but insisted that it would go ahead with screenings at its second Tokyo cinema and at other theatres nationwide.
やれやれ…orz
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