大阪産業大学の藤永先生がまとめておられる、『
「慰安婦」問題と歴史修正主義についての略年表』(2002年5月17日3訂)をお借りして、「慰安婦」問題に関する教科書記述に関する情報と、代表的な出来事を抜き出してみると、以下のようになった。
《1991年》
8.14 金学順が韓国で初めて元慰安婦として名乗りを上げ、記者会見
12. 6 金学順ら元慰安婦3名が、軍人・軍属らとともに、日本政府の謝罪と補償を求めて東京地裁に提訴
《1992年》
1.11 旧日本軍の慰安所設置、慰安婦募集統制を示す資料が、吉見義明・中央大教授により、防衛庁防衛研究所図書館で発見されたことを『朝日新聞』が報道
1.13 加藤紘一官房長官、「軍の関与は否定できない」と談話発表
1.17 訪韓した宮沢喜一首相が、盧泰愚大統領に慰安婦問題に対して公式謝罪
2. 1 日朝国交正常化交渉で、日本政府が慰安婦問題に関し、北朝鮮側に謝罪表明
7. 6 日本政府、第1次調査結果公表。政府の直接関与を公式に認めたが、強制連行を立証する資料は発見されず。「補償に代わる措置」検討表明
《1993年》
4. 5 在日の元慰安婦の宋神道、東京地裁に提訴
5.11 94年度用高校日本史教科書のすべて(7社9種)に、慰安婦に関する記述のあることが判明
8. 4 日本政府、第2次調査結果発表。河野洋平官房長官、談話で慰安婦の募集、移送、管理などが「本人たちの意志に反して行われた」ことを認め「お詫びと反省の気持ち」を表明
《1994年》
1.25 オランダ人元慰安婦・捕虜など東京地裁に提訴
11.22 ICJ(国際法律家委員会)が報告書を発表。慰安婦被害者には個人補償請求権があると結論。日本政府に行政機関の設置、立法措置、仲裁裁判に応ずべきと勧告
12. 1 連立与党の戦争謝罪国会決議案に反対し、自民党内に「終戦五十周年国会議員連盟」(会長・奥野誠亮)が発足
《1995年》
1.24 日本弁護土連合会、「従軍慰安婦問題に関する提言」をまとめ、政府に提出。立法措置などにより、元慰安婦個人に補償するよう求める
《1996年》
1. 4 クマラスワミ特別報告官、国連人権委員会に慰安婦問題に関する報告書提出、日本政府に国際法違反の法的責任を受け入れるよう勧告(2.6 報告書の内容が公表)
4. 9 自民党の「終戦五十周年国会議員連盟」が「明るい日本・国会議員連盟」(会長・奥野誠亮、事務局長・板垣正)と名称変更決定(6.4 結成総会。奥野会長が記者会見で「慰安婦は商行為」「強制連行はなかった」と発言、教科書の記述を批判)
4.29 国連人権委員会、クマラスワミ報告書全体に留意する(take note)との支持決議採択
6.27 97年度用中学校社会科教科書の検定結果が公表。7冊すべてが慰安婦に関して記述
7.20 自由主義史観研究会、中学校教科書からの慰安婦記述削除要求など、歴史教科書批判を全国規模で展開することを決定(1996年8月付で、緊急アピール「中学校教科書から『従軍慰安婦』の記述の削除を要求する」発表)
9.22 「日本を守る国民会議」が教科書からの「慰安婦」関連記述の削除を求めて、1カ月の全国縦断キャラバン開始
12. 2 「新しい歴史教科書をつくる会」(以下「つくる会」創立記者会見。呼びかけ人は、藤岡信勝、西尾幹二、小林よしのり、坂本多加雄、高橋史朗ら9名
《1997年》
8. 8 国連差別防止・少数者保護小委員会のマクドガル特別報告書の内容が明らかになる。慰安婦問題について、責任者処罰、元慰安婦への損害賠償などを日本政府に勧告
《2000年》
4. 4 財界人・文化人・教育関係者による「教科書改善連絡協議会」(会長・三浦朱門)が発足。設立趣意書で、現在の小中学校歴史教科書では国に対する誇りを感じることができない、全国の教育委員に教科書採択権の正しい行使を要請する、と述べる。目的の達成のため「国会議員、地方議員との協力関係を結」ぶ方針
4.13 扶桑社が「つくる会」作成の2002年度用中学校歴史教科書を、文部省に検定申請
7. 1 中学校歴史教科書の検定申請本8種の内容が報道される。「慰安婦」についての記述が3社に減少することなどが判明
《2001年》
4. 3 文部科学省が2002年度用小中学校教科書の検定結果を発表。「つくる会」中学校歴史・公民教科書も合格
かなりざっくり抜き出したが、日本政府は、あの、安倍元首相の時代でも
河野談話を踏襲し続けている。麻生現首相だって踏襲
(ここではふしゅう)と明言している事は、改めて確認したいものだ。
なのに、
(略) 例えば、南京大虐殺についていえば、中学校歴史教科書では1984年度版の全(8社8種)て、高校日本史教科書では1985年度版の全て(8社10種)のはからである。小学校社会科(歴史)教科書では1992年度版の全て(8社8種)に記述されるようになった。
こうした歴史教科書の改善は、政府・文部省によるものではなく、教科書の執筆者・編集者・教科書出版社の努力によるものである。(中略)
こうした経過の中で、94年度版の高校日本史教科書10社20種中9社19種に日本軍「慰安婦」の記述がはじめて登場した。(中略) 日本軍「慰安婦」の記述は、日本史以外の世界史、現代社会、倫社、地理、政治経済などの教科書にもかなり記述されている。次いで、97年版の中学校歴史教科書(7社7種)すべてに「慰安婦」が記述されるようになった。
他方、こうした侵略戦争記述の改善、とりわけ「慰安婦」記述の登場に対する逆流も90年代半ばから強まってきた。これを主導したのは自民党である。(中略) この自民党の提起を受けて、96年夏から教科書の侵略戦争・「慰安婦」・南京大虐殺などの記述を「自虐史観」「偏向」と攻撃して、教科書から削除を求める運動がはじまった。(中略) こうした「国民運動」の中で97年1月に新しい歴史教科書をつくる会(「つくる会」)が結成され、歴史を歪曲し戦争を肯定する中学校歴史・公民教科書を発行し、文部科学省の検定に合格した。これに呼応して、「つくる会」と連携し支援するために、97年2月、自民党内に「日本の前途と歴史教育を考える若手議員の会」という議員連盟が結成された。この議員連盟の中心議員は今日、安部晋三官房副長官をはじめ政府の中枢に入っている。
98年6月、町村信孝文部大臣は国会で、「教科書は偏向している。検定提出前に出版社に是正させるよう検討する。また採択を通じて是正することも検討する」と答弁した。これを受けて、99年1月、文部省幹部が中学校歴史教科書出版社の経営者に対して、内容の是正と著者の見直しを要請した。さらに、中学校教科書は2000年4月から検定が行われたが、検定申請図書を編集中の99年12月、内閣官房から中学歴史教科書出版社の社長宛に「慰安婦の記述は慎重に扱うよう」電話があった。こうした政府の圧力によって、これまで「慰安婦」を記述していた7社の教科書の内、4社が完全に「慰安婦」記述を無くしてしまった。「慰安婦」記述を残した3社の場合、それまでよりもさらに正確に、「朝鮮などアジアの各地で若い女性が強制的に集められ、日本兵の慰安婦として戦場に送られました」と記述したのは1社(日本書籍)のみである。他の2社は「戦地の非人道的な慰安施設には、日本人だけでなく、朝鮮や台湾などの女性もいた」(清水書院)、「戦時中、慰安施設へ送られた女性や、旧日本軍人として徴兵された韓国・台湾の男性などの補償問題が裁判の場に」(帝国書院)と「慰安婦」という言葉をなくした。「慰安婦」を削除した4社の内1社は、「多くの朝鮮人女性なども戦場に送り出された」と「慰安婦」をにおわせる記述をしていたが、検定によって、「戦場」を「工場」に修正させられた(教育出版)。(中略) 2002年度の検定に合格した高校日本史教科書のなかにも、これまで記述していた「慰安婦」をなくしたものが出てきている。(後略)
念のために書いておくと、強制とは暴力だけではない。騙し連れや前借金による拘束も含まれる。
再三、文章をお借りしている若桑みどり氏は、吉見義明氏や本多勝一氏ら10人との共著でだされた書籍「歴史と真実」で、「慰安婦」記述の教科書からの削除要求に対し、こう記していた。
「慰安婦問題」に関してとりわけ「教科書から削除せよ」という運動が奔出してくるのもまたこの問題が「性」にかかわる問題であるが故である。(略) 子供に売春を教えてはならないという一見道徳的な「わかりやすい」論法は、「売春とはなにか」「なぜ売春が起こるのか」「売春のどこがいけないか」「どうしたらなくなるのか」という問題へと子供を導くという本来あるべき教育の方向性をねじ曲げて、暗部を隠蔽し子供に目隠しをかけるという意図を持っている。(略)
だが、成人男性の多くは、どこがいけないかを教えることは出来ない。あるいは、彼らはいけないと思っていないのである。あえていえば、多くの男性はこの問題には触れられたくない。これは「おとな」の男性の「了解事項」であって、自分の子供達によって知られてはならないことなのである。(中略、自由主義史観研究会による1996年8月付で、緊急アピール「中学校教科書から『従軍慰安婦』の記述の削除を要求する」に対して)4番目の条項で子供に暗部を暴くことはないと言っていることからもわかるように、基本的な態度は、売春という事実をおおっぴらにせず、隠蔽しておくということを提言しているのだ。
若桑みどり「従軍慰安婦問題・ジェンダー史の視点からーーーなぜ標的となったのか」P.163- @『歴史と真実』(筑摩書房 1997/11/13)より一部
このような状況になっている、日本の歴史教科書における「慰安婦」問題の記述だが、
アメリカ下院や、
欧州議会や、
オランダ下院や、
韓国議会や、
台湾立法院は、日本政府に対し「慰安婦」問題に関しての歴史教育をするように促す内容を含んだ決議を採択している。
国連・自由権規約委員会による日本の人権状況に関する第5回審査最終見解でも「児童・生徒・学生および一般大衆に「慰安婦」問題について教育・啓蒙」すべきと指摘されている。
三鷹市議会、
札幌市議会、
清瀬市議会が採択した、日本政府に対し「慰安婦」問題に対し誠実に対応するよう求める意見書でも、後代への教育の必要が指摘されている。
というような前提をふった上で、『
「慰安婦」決議に応え今こそ真の解決を!』さんによる『
教科書会社に、中学校歴史教科書への日本軍「慰安婦」の記述を求める要請への賛同が呼びかけ』のご紹介。
以下が呼びかけ文です。
■97年度版中学歴史教科書全社に記述された「慰安婦」は、貴社をはじめ、今やすべての教科書本文から「慰安婦」の言葉が消え、関連記述は日本書籍新社(本文)と帝国書院(注)のみとなりました。日本政府が継承している河野談話は、「このような歴史の真実を回避することなくむしろこれを歴史の教訓として直視していきたい」「歴史研究、歴史教育を通じてこのような問題を永く記憶にとどめるという固い決意」を表明しています。河野談話は政府の公約です。しかし、河野談話を否定する政府高官の発言や文科省の意向から、検定意見が年々厳しくなったために、残念なことに、前述のように貴社の教科書から「慰安婦」の文言は消えてしまいました。
政府は、今年1月、教科書記述について、「教科用図書検定基準に沿っているものである限り、当該図書の著作権者等の判断にゆだねられている」と言明していますが、これは憲法を遵守し、平和・平等・人権を根幹に据えた基準であるべきで、今年3月に改定された同検定基準に「近隣諸国条項」は継承されています。改定教育基本法にも、「他国の尊重」「国際社会の平和と発展への寄与」が謳われています。
■被害女性たちは教科書に「慰安婦」を記述することを、長年、求めてきました。
「後世に語り継がれるためにも、教科書への記述、教育での『慰安婦』問題の継承を強く求めます」(ヴァージニア・ヴィリアルマ/フィリピン)。「日本政府は歴史を隠し、若い人たちに分からせていない。私たちが日本に来て分かったことは若い人たちが戦争のことを全然知らないということです」(陳桃/台湾)。「私たちは、若い人に同じ苦しみを味わわせたくないという思いで闘っています。若い人に、歴史のウソを教えないで、本当のことを教えてほしい」(吉元玉/ 韓国)。
このように被害女性たちは、戦争ではどのようなことが起こるか知ってほしい、二度と戦争のない、性暴力のない社会を願って、自らの体験を語ってこられました。
教科書に記述して若い世代に歴史の事実を伝え、それを通して女性の人権、人間の尊厳を教えることは、被害を受けた女性たちの尊厳回復のためにも、同じ過ちが繰り返されないためにも、国際社会の平和と発展のためにも、日本の公的責任です。
■90年代から数々の国連機関が「慰安婦」問題の解決を勧告してきました。
ここ数年も、世界各国議会の「決議」や国連人権理事会、自由権規約委員会、ILO専門家委員会、拷問禁止委員会、女性差別撤廃委員会などの「勧告」をはじめ、宝塚市議会、清瀬市議会、札幌市議会、福岡市議会、箕面市議会、三鷹市議会、小金井市議会、京田辺市議会などの地方議会で、次々に「慰安婦」問題の公的・正当な解決を求める「意見書」を採択しています。
これらの決議・勧告・意見書は、公的な謝罪・補償、事実の公的認知、更なる真相究明、「慰安婦」否定の言動に対し毅然とした姿勢をとることなどと共に、教育の重要性を訴えています。
■現在、教育現場では「慰安婦」問題を教えようと努力されている先生が多数いますが、教科書に書いてないために教えることを阻まれている状況もあります。教科書に書いてないために教えたことを咎められ、処分を受けた先生もいます。政府の公約であるにも関わらず、です。
しかし、若い世代の中からは「事実を知りたい」「学校できちんと教えてほしい」という声が多数、聞かれます。こうした子どもたちの声に、耳を傾けてください!!「慰安婦」問題を義務教育で教えることは、子どもの権利条約でも謳われている子どもの知る権利を保障することでもあるのです。
現在、2012年度版中学歴史教科書の編集作業が進んでいると思いますが、貴社におかれましては歴史修正主義の攻撃に屈することなく、子どもたちの知る権利・学ぶ権利を保障するためにも、勇気と信念をもって「慰安婦」の記述を復活されますよう、心から要請いたします。
2009年8月7日
第一次集約は8月17日、第二次集約は9月15日とのことです。
個人的には、93年頃の教科書記述は、最近の「慰安婦」問題における認識から見るに、不正確ではないのかとは思える。例えば、強制とは、暴力によるものだけではなく、脅迫や騙しや金銭的な拘束も含まれることも明確にすべきだ等など
(これは、レイプやDVなどにおいても認識すべきことだし)。そして、自爆広告「The FACTS」にはじまる各国の公式謝罪要求決議の採択ラッシュを含めて後の世代には教育し、「オウンゴール」はやめましょうとも教育すべきではなかろうか、と。
参考;
・『
「新しい歴史教科書をつくる会」に抗議する女たちの緊急アピールとあいさつ』
・『
教科書と「慰安婦」』
・2007/12/20付『
Gazing at the Celestial Blue 「彼ら」が教科書を標的にする理由;若桑みどり氏の「戦争とジェンダー」より』
TB先;
『
論破より先にすることがある 3 - Stiffmuscleの日記』より一部;
1925年に当時の日本政府が批准した『婦人及児童ノ売買禁止ニ関スル国際条約』では21歳未満を児童つまり子どもと規定している。日本政府は本条約の植民地への適応を行わなかったが、朝鮮における公娼制の下限は満17歳であり、上図で16歳以下に限ってみたとしても16歳以下の元「慰安婦」は89名、全体の51.5%に及ぶ。
この傾向は、韓国を含めたアジア各国の元「慰安婦」でもみてとれる(略)
「年端もいかない子供たち」が「強姦」され、「売春」を強要され、日本軍の「性奴隷」を強要されたのだ。
安倍元首相の言うところの「狭義の強制性」の有無など全く重要ではない。
2009-08-11付『
おこじょの日記■[物申す]性て、人格の一部だろうに』より一部;
(略) しかも、彼らは「売春婦」という言葉を投げつけることが、元慰安婦の女性たちの主張を無効化すると思ってる節がある。これも、ワタスには理解できなかったんだが、彼らはどーも女性の「性」というものは人格の一部でなくて単なるモノと思ってるからなんじゃないかと思い付いた。
もし「性」がただのモノなら、売春婦となってそれを商品として売ることを決めたんだから、商品がどーなろうと買った人間の自由であるからして、あとから文句言うとは何事か、ということなんだろうな。(後略)
『
かめ?:教育に関して、超きれいごとを言ってみる』
『
JCJ神奈川支部ブログ 夏休み・親子で平和を考える』7月25日付より一部;
毎年8月、「戦争を考える」さまざまな特集がTVや新聞で報道されますが、年々、その企画も減り、戦争体験を伝える当事者も大半が80代を超えました。アジアで「慰安婦」とされたおばあさんたちも例外ではありません。平和の大切さを身を以て伝える人びとが亡くなったり、高齢になるのを待っているかのような、この間の日本政府の対応に、アメリカ、ヨーロッパ、国連などが再三にわたり、公式の「謝罪、賠償、歴史教育を」と勧告しています。
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