先日、
横浜市のドメスティックバイオレンス(DV)に関する調査をエントリにお持ち帰りしたが、その際に周辺情報を見て回っていると、定額給付金とDVに関する話題が多いことが目を惹いた。
定額給付金といえば、書籍「
とてつもない日本」の
著者氏も受け取るとかいう話の、平成21年2月1日に「住民基本台帳に記録」や「外国人登録原票に登録」されている人1人につき1万2千円、ただし65歳以上、および18歳以下の人は2万円の、あれ。それがどうしてDVと関係あるかというと、
住民基本台帳に記録されている人分が属する世帯の世帯主に支給されるからだ。
DVから逃れている(多くの場合)女性は、住民基本台帳に載った住所で生活していないし、DV加害者から隠れている。なのに、(こういった場合には加害者である)世帯主に定額給付金は支給されてしまう訳。先のエントリでも引用したとおり、DVから逃れている被害者は経済的な不安が大きいのに、この定額給付金も受け取れないとは洒落にならない。
一部の可能な人は、裁判所に夫への定額給付金の給付差し止めを求める仮処分申請を行っているという。
ドメスティックバイオレンス(DV)被害者の女性が、世帯主である別居中の夫が持つ定額給付金の請求権を仮差し押さえするよう申し立てた抗告審で、大阪高裁は26日までに、家族3人分の給付金を支払わないよう大阪市に命じる決定をした。決定は25日付。
一部の自治体は、別居で給付金を受け取れないDV被害者に同額を支給しているが、こうした救済措置をまだ取っていない自治体も多い。女性の代理人・長岡麻寿恵弁護士は「請求権の仮差し押さえが認められた例は聞いた事がない。救済の道を開く判断だ」と評価している。
この仮処分申請、一審大阪家裁は
相続や譲渡、差し押さえができない「一身専属的権利」と判断したが、高裁決定は「一身専属的権利として仮差し押さえの対象から除外する根拠はない」と判断したという。
一方、1社を除いて報道されているのを見つけられないのだが
(この報道はエントリの後半で引用)、DV被害女性が世帯主の夫と別居中で受給できないケースに対し、総務省が今年5月末に市町村の独自対応を文書で助言したそうで、例えば横浜の場合、
(略)
ドメスティックバイオレンス(DV)被害で夫と別居している女性が、定額給付金を世帯主の夫に支給しないよう求める仮処分を横浜地裁に申請している問題で、原告8人のうち7人が既に申請を取り下げ、残る1人も取り下げる方針であることが2日、分かった。弁護団が明らかにしたもので、自治体が相次いで独自の救済制度を設けたことなどで、一連の問題は終息する。
弁護団によると、20代~30代の原告女性8人のうち、横浜市に住民票がある2人と川崎市に住民票がある3人、横須賀市に住民票がある1人、都内に住民票がある1人は、自治体の独自財源でのDV被害者らへの救済策を活用して定額給付金相当額を受け取るか、受け取れることが確実となったため、申請を取り下げた。
残る1人の被害女性は、直接的な暴力はなく、しつこいいやがらせなどの精神的被害による別居であることなどから、当該自治体の救済対象要件となる「公的機関によるDV被害の証明」が難しいと判断。申請を取り下げることになったという。
申請を取り下げた原告の1人は「別居後、恐怖からアルバイトもまともにできない状態になった。切りつめた生活の中、今回の援助金は本当にうれしかった」とコメント。(略)
大分市では、この横浜の動きに倣って、住民票とは別の場所で暮らしている被害者に対し、独自に定額給付金相当額を支給する方針を決めたそうで、
2月1日時点で「世帯主と別居していて、警察や行政など、公的機関で相談していると確認された人に支給されるという。
また、
青森市と八戸市もDV被害で定額給付金を受け取れない対象者に独自給付するそうで、広島県尾道市でも
2月1日時点で尾道市内に居住し、DVのため住民票がある所から別の所へ転居してきていることが、裁判所からの保護命令などで証明できる人に対して独自給付金を支給するという。
栃木県宇都宮市では、DV被害者対象の独自の給付金制度を設けたものの、「居所を知られたくないと、市への連絡をためらう人が多い」と見られる申請の少なさがあったり、
香川県内では高松市だけなんて報道もあったりするが、
北海道の北広島市、
神奈川県小田原市、
福島市、
千葉県白井市、
朝霞市に狭山市(東京都?(^^;)、
山形市、
山梨県の県内4市町等々が、ざっと見て回った範囲、独自支給を決めているという。
数えられる時点でどうかという気もしないではないが。それに、DV加害者が一方的に得をしてるのってどうよとは思えるが、それを阻止するために被害者救済がなおざりになるよりは、独自支給が次善の策であるのは、そりゃそうだろう。
この最後にあげた山梨県では、
(略)
一方、こうした救済策のない自治体に住むDV被害者への対応や、支給要件の不統一による重複支給の可能性など、問題もある。
県市町村課の調査(5月25日時点)によると、独自支給を「予定または検討中」が9市町村。その他の15市町村は「実施しない」だった。「予定」「検討中」でも、問い合わせがないとの理由で具体策に着手していない市町村も少なくない。(略)
県内のDV被害者の保護をしている市民団体「女性の人権サポート・くろーばー」の森川茂子代表は「山梨は特にDV被害への意識が低い」と指摘する。
森川さんらは、ある自治体の担当者に「該当者はいないので独自支給はしない」と言われ、落胆したことがある。その自治体に住む女性から相談を受けた経験があったからだ。(後略)
また、先に引用した神奈川新聞の〆部分だが、
(略)
一方、弁護団の佐賀悦子弁護士は「現実に制度ができ、救済された人がいるのは救い」としながらも、「国が自治体にゆだねてしまったので、(救済に)地域間格差が発生している。狭義の『DV被害者』しか救済されていない」と指摘。国の対応についても「私たちはあくまで分離支給を求めていた。国が年度内支給にこだわり、制度の欠陥に目をつむった結果、二重支給を公然と制度化することになった」と厳しく批判した。
など、問題は大いに残っているだろう。
とはいえ、
秋田市の穂積志市長は24日、夫などによるドメスティックバイオレンス(DV)で市内に避難・居住している人に対し、定額給付金と同額を独自に支給する方針を明らかにした。(略)
穂積市長は「今のところDV被害のために定額給付金を受け取れないといった相談は寄せられていない。しかし、実態はつかめないものの、こうしたケースはゼロではないと思う。早く制度の枠組みをつくって対応したい」と説明。その上で「もし(DV被害に)悩んでいる人がいたら、ぜひ相談してほしい」と呼び掛けた。(後略)
素晴らしい。
と、まぁ、こんな調子で、国の対応に問題は大ありとは思えるが、よろよろしながらでも地方自治体は対応し、DV被害が可視化された結果として支援に目がむくようになっているようだと報道を見て回っていたのだが。こんな報道に行き当たった。
虐待を受けて児童福祉施設に入所する一部の子どもたちに定額給付金が届かない。給付金は、親に居場所を明らかにしていない子などへの個別支給を想定していないため。総務省は「(個別支給は)給付金の趣旨と違う」と説明するが、福祉関係者らは「虐待は子どもの責任ではないのに、不利な扱いを受けるのはおかしい」と指摘する。(略)
給付金は、住民登録に基づき世帯主に家族全員分が一括支給される。家庭内暴力(DV)の被害女性が世帯主の夫と別居中で受給できないケースについては、総務省が今年5月末に市町村の独自対応を文書で助言した。一方、親と離れて暮らす子の対応については想定されていない。(後略)
…orz
知らないはずはないが、表立って不満を口にする子どもはいないらしい。「仕方ないと思ってるのかもしれません」と県内のある児童養護施設の職員は言う。(略)
しかし施設にいる子どもの多くには関係がない。給付が世帯単位だからだ。
入所が長くなるなどして、住民票を施設の住所に移している子どもも中にはいるが、大半は親元に住民票がある。それを入所条件にしている親もいる。そうした子どもたちに給付金が直接渡ることはない。渡しに来る親もまれという。(略)入所後に判明したケースも含めると、入所者の半数以上が被虐待児だ。それでも給付金を「保護者」に渡すべきかどうか。
DV(ドメスティックバイオレンス)被害者の場合は、高松市のように同額を個人に給付する自治体もあるが、子どもについてはそんな例は県内にない。検討した様子もない。「そんな相談自体がないから」(高松市)だ。
DV被害者への個人給付を補填(ほてん)する国の予算も、子どもには付かない。こんな国や地方を変えようにも、今の彼らに投票権はない。彼らはどこまでしわ寄せを受け続けなければならないのだろう。
…orz orz orz
この「定額給付金」支給を決めた、「こんな国」の首相は「
とてつもない日本」なる書籍を出版したときくが、この
首相も「定額給付金」をうけとるそうな。
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