しばらく待ってみたものの、カナダの「慰安婦」謝罪要求動議の報道は29-30日にどっと出ただけでした。そして、その後、日本紙が愉快な社説を掲載するというような動きもないようで、なんだか日本って三歩歩くと忘れる国なのかと物悲しい思いに駆られたので、遅ればせながらカナダ動議関連のエントリーをば。
日本マスメディアの報道はだいたい見たと思うけど、報道そのものはそこそこの数が出たのにどれも非常に短い。これでは、カナダがどういう意志を示したかは日本の報道を見ているだけでは解らないのではないだろうか、恐らく。一番正確に、動議に記述されている「カナダ政府に対し日本政府へ奨励するように求めた」の内容を伝えたのはしんぶん赤旗。
【ワシントン=鎌塚由美】カナダ下院は二十八日、アジア太平洋戦争時に旧日本軍が侵略先の女性たちを性奴隷にした日本軍「慰安婦」問題で、日本政府に真摯(しんし)な謝罪を求める動議を全会一致で可決しました。「慰安婦」問題での決議は米下院(七月)、オランダ下院(今月八日)に続くものです。
引用としてはここまで。この辺の記述に私には微妙な異見があるけど、それはともかく。
この後、赤旗は動議が求めた内容を記述するが、それを箇条書きに直してみる。
(1) カナダ下院の総意として、旧日本軍の関与について日本政府が「全面的に責任を負う」よう「カナダ政府は日本政府に働きかけよ」と求めた。
(2) 日本政府が一九九三年に「慰安婦」の強制と関与を認めた「河野官房長官談話」に言及し、日本政府に対し同談話を「おとしめる、いかなる発言も放棄する」よう求めた。
(3) 「慰安婦」という「人身売買と性的奴隷化」は、「決して起こらなかった、といういかなる主張に対しても明確に公に反論する」よう日本政府に要求
(4) 謝罪の方法の一つとして、「国会が、すべての被害者に対し公式で誠実な謝罪を表明すること」を提案した。
この部分が動議の「v」に対応しているようなので、カナダ動議の内容を「v」に重点を起きつつ、要点を列挙してみる。
(i) 「慰安婦」に関する事実認定
(ii) 日本の公人が河野談話撤回希望を表明してきたことへの問題視
(iii-iv) 日本が戦後、国際平和・安全保障その他に貢献してきたこと、及びカナダの友邦であることの確認そして、カナダ政府が日本政府に奨励するように下院が挙げた内容「v」は記述順に、
(a)河野談話の後悔を表した文言の価値を減ずる声明は、どんなものであっても出すことを避ける。
(b)日本皇軍用「慰安婦」の性的奴隷状態と人身売買が決して起こらなかったという主張には、どんなものであっても明確に公的に反駁する。
(c)強制売春システムにおける日本皇軍の関わり合いにたいし完全な責任を取る。
(d)それは、全ての犠牲者に向けた、国会における公式で誠実な謝罪の表明を含む。
(e)和解の精神に基づく取り組みを続ける。と、記号を振ってみる。
すると、赤旗報道はc,a,b,dが含まれる事が解る。何故か「和解の精神に基づく取り組みを続ける」は報道されない。動議「v」以外の要素では、、、(i)-(iv)は含まれていないようだ。赤旗が「一番正確に…」と前述してみたものの、カナダ下院が日本政府に求めることは伝えてはいても、、、という気がしてきた。
さて、これをふまえて他社報道を見ると。
見て回った範囲で、もっとも行数をさいて報道していたのが中国新聞ニュース。以下、中国新聞ニュース'07/11/29報道「
カナダも慰安婦決議を採択 日本政府に公式謝罪要求」より
【ニューヨーク28日共同】カナダ下院は二十八日、第二次大戦中の従軍慰安婦問題をめぐり日本政府に謝罪などを求める決議案を全会一致で採択した。同問題での外国議会による最近の決議は今年七月の米国、今月九日のオランダに次ぎ三例目。拘束力はないが、日本政府への国際的な不信感の広がりを示した形となった。
引用中断。
何故か、オランダ決議の日にちが違う(笑)。それはともかく「拘束力はない…(5)」「日本政府への国際的な不信感の広がりを示した…(6)」
一方、決議案に当初あった日本の学校教科書に同問題を明記するよう求めた部分は日本政府の働き掛けなどもあって最終的に削除された。
…(7)
決議は、第二次大戦中に「旧日本軍がアジア・太平洋地域で女性に性奴隷になるよう強制した」事実があるとし、日本政府に「公式かつ誠意ある謝罪」を含め完全な責任を取るよう求めた。しかし日本が敗戦以降、過去の行為を償い、国連を通して国際平和に貢献してきたと明記するなど、当初の非難色はかなりトーンダウンしている。
「
事実認定…(8=i)」「
完全な責任を取るよう(に働きかけろとカナダ政府に)求めた…(9=c(=1)」「
非難色はトーンダウン…(10=iii-iv)」
決議案は野党の新民主党の中国系議員オリビア・チョウ氏が提出。三月に下院小委員会で可決後、委員会での審議を経て本会議にかけられた。
在カナダ日本大使館によると、日本政府は今年春ごろから決議回避に向けカナダ側に働き掛け、福田康夫首相は今月の訪米の際にカナダのハーパー首相との電話会談で日本政府の立場を伝えたという。
「チョウ議員が中国系であることに言及…(11)」「福田首相が電話でハーパー首相とお話…(12)」ってな感じで、赤旗と中国新聞ニュースを併せて、12点ぐらい報道にポイントがあるだろうか。
ただし、カナダ動議にある、
(ii)河野談話撤回希望への問題視、(a)河野談話堅持、(b)無かった主張に対する公的反駁、(e)和解の取り組み継続は、中国新聞ニュースでは言及されない。そして、さらにその他の報道を見てみる。
共同通信(ほとんどの地方紙はこれをそのまま配信)2007/11/29 08:26より「
カナダ、慰安婦決議を採択 日本政府に公式謝罪要求、
リンク切れ時用キャプチャはこちら」の場合;冒頭に「全会一致で採択…(13)」とあって、あとは(6)国際的な不信感の広がり、(7)教科書へ明記は削除、
(8=i)事実認定、(9=c)責任を取る、(10=iii-iv)非難色はトーンダウン、以上。
(ii)河野談話撤回希望への問題視、(a)河野談話堅持、(b)無かった主張への反駁、(d)国会における公式謝罪表明、(e)和解の取り組み継続、は無し。
時事通信、2007/11/29-09:54より「
慰安婦問題で日本に謝罪要求=カナダ下院が動議可決、
リンク切れ時用キャプチャはこちら」の場合;(13)全会一致で採択、(5)法的拘束力無し、
(3=b)無かった主張への反駁、(9=c)責任を取る、(4=d) 国会における公式謝罪表明、以上。
(ii)河野談話撤回希望への問題視、(a)河野談話堅持、(e)和解の取り組み継続、は無し。。
読売新聞、2007年11月29日11時21分より「
従軍慰安婦問題、カナダ下院が日本の謝罪求める動議採択、
リンク切れ時用キャプチャはこちら」の場合;
(9=c)責任を取る、(4=d) 国会における公式謝罪表明、(13)全会一致で採択、
(3=b)無かった主張への反駁、(11)中国系野党議員が提出(チョウ議員の性別に言及無し)、(5)法的拘束力無し、
(10=iii-iv)対日関係への配慮あり、以上。
(ii)河野談話撤回希望への問題視、(a)河野談話堅持、(e)和解の取り組み継続、は無し。
asahi.com 2007年11月29日11時06分より「
カナダ下院、慰安婦問題の謝罪求める決議採択、
リンク切れ時用キャプチャはこちら」の場合;(13)全会一致で採択、(5)法的拘束力無し、
(8=i)事実認定、(4=d) 国会における公式謝罪表明、(10=iii-iv)非難色はトーンダウン、(11)中国系野党女性議員が提出。
なお、朝日には、当時の安倍首相による「慰安婦否定発言」の後に起こった動きであることの言及があったので、
(ii)河野談話撤回希望への問題視に近い記述を含んでいる。
(a)河野談話堅持、(b)無かった主張への反駁、(e)和解の取り組み継続、は無し。
毎日新聞 2007年11月29日 10時13分より「
カナダ:従軍慰安婦決議を採択 日本政府に公式謝罪要求、
リンク切れ時用キャプチャはこちら」の場合;(13)全会一致で採択、(5)法的拘束力無し、(6)国際的な不信感の広がり、
(8=i)事実認定、(9=c)責任を取る、(10=iii-iv)非難色はトーンダウン、以上。
(ii)河野談話撤回希望への問題視、(a)河野談話堅持、(b)無かった主張への反駁、(4=d) 国会における公式謝罪表明、(e)和解の取り組み継続、は無し。。。と思ったら、これは共同配信でした。さらに短縮しているようだけど。
AFP日本語版 2007年11月29日 17:42より「
カナダ下院、従軍慰安婦問題で謝罪求める決議案を採択、
リンク切れ時用キャプチャはこちら」の場合;(13)全会一致で採択、
(4=d) 国会における公式謝罪表明、(3=b)無かった主張への反駁、以上。
(ii)河野談話撤回希望への問題視、(a)河野談話堅持、(e)和解の取り組み継続、は無し。
そして、MSN産経ニュース2007.11.29 08:35報道より「
カナダ、慰安婦決議を採択 日本政府に公式謝罪要求」の場合;(13)全会一致で採択、
(9=c)責任を取る、(4=d) 公式謝罪表明、(3=b)無かった主張への反駁…に近い表現だが
反駁ではなく封じ込めを要求されたとの記述有り(もちろん、実際に要求されたアクションはこれでは違う)、(5)法的拘束力無し、
(10=iii-iv)非難色はトーンダウン、(7)教科書へ明記は削除、(11)中国系野党女性議員が提出。
(ii)河野談話撤回希望への問題視、(a)河野談話堅持、(e)和解の取り組み継続、は無し。
(8=i)事実認定に関しても、余りそれと明記されていない。
そして、産経オリジナルの言及として「今年5月に下院外交委員会で1度は小委員会へ差し戻されたものの、米下院での決議採択(7月)に触発された華僑系の反日組織『カナダALPHA』などが巻き返し運動を展開した末、本会議採決に持ち込まれていた。AFP通信によると、決議採択を受けてチョウ氏は、『慰安婦問題は20万人の女性への犯罪にとどまらない人道への犯罪だ。世界のすべての市民が反対を叫ぶ責務をもつ』とコメントした。」
と、「華僑系の反日組織」「叫ぶ責務をもつ」と、なかなか(ある種の)ツボを押さえた報道だった。
ちなみに
AFP通信の原文におけるチョウ議員発言は、"For me, this isn't crimes against 200,000 women. It's crimes against humanity and all of the world's citizens have a responsibility to speak out against it."
そういう訳で、改めてまとめるのは別エントリーにしようと思っているのだが、日本における報道で全然触れられない動議の内容として、
(e)和解の取り組み継続……継続、すなわち、既に日本はある程度やっているという評価はしている部分は伝わってこない。
ほとんどふれられない内容として
(ii)河野談話撤回希望への問題視……そもそも、そういう無かった主張があったからこそ問題視されたのだという側面もほぼ伝わらない。
(a)河野談話堅持……最低ラインとして、高く評価されているのが河野談話である事実も伝わらない。
こういう報道に触れているだけだと何が問題視されているのかその他、特に関心を払っていなければ伝わらないだろうなぁと思ったのだった。