15日の閣議で、辻元清美議員のアメリカ下院の公式謝罪要求決議採択に関する質問趣意書に対して、「慰安婦問題に対する日本政府の取り組みに対して正しい理解がなされていないと考える」との答弁書を決定したと、産経が報道。
「慰安婦問題」についての米下院決議と安倍首相の謝罪に関する質問主意書
米下院は七月三〇日の本会議で、「慰安婦問題」について日本政府が歴史的責任を認め、公式に謝罪するよう求める決議を採択した。決議は、「旧日本軍が若い女性に性的な奴隷状態を強制した歴史的な責任」を日本政府が「明確な形で公式に」認め、日本の首相が謝罪声明を出すよう求める内容となっている。これに対し安倍首相は、七月三一日、「私の考え、政府の対応については四月に訪米した際に説明をしてきた」「これからもよく米側に対して説明していくことが大切だと思う」と述べた。
安倍首相は決議が採択される以前の三月五日、「米下院外交委員会の決議案は客観的事実に基づいていない。決議があっても謝罪することはない」と述べている。
この件について、以下、質問する。
一 安倍首相は、「旧日本軍が若い女性に性的な奴隷状態を強制した」ことについて、日本政府には「歴史的な責任」があると考えるか。責任がある、ないで答弁されたい。また、そう考える根拠も併せて示されたい。
二 安倍首相は、「米下院外交委員会の決議案は客観的事実に基づいていない」と考えるか。基づいている、いないで答弁されたい。また、そう考える根拠も併せて示されたい。
三 安倍首相は、米下院の決議に応えて、「旧日本軍が若い女性に性的な奴隷状態を強制した歴史的な責任」について公式に謝罪する意志はあるか。意志がある、ないで答弁されたい。
四 二〇〇七年八月七日現在の政治的判断として、明確で公式な謝罪として、いわゆる「河野官房長官談話」を閣議決定すべきと考えるが、あらためて政府の見解を示されたい。すべきでないと判断するのであれば、その根拠を示されたい。
そして答弁(答弁に含まれる、
小池防衛大臣の方の質問趣意書はこちら、、、こっちにもまともに答えてないのでわ)
1)7/26小池防衛大臣の「アメリカ(の艦船)が支援のため神戸港に入ろうとしたところ、神戸の港湾組合が厳しいため、なかなか着岸できなかった」という発言について、政府は「米国艦船が神戸港に着岸を試みた事実や寄港した事実はない。港湾労働組合による反対の事実もない。小池大臣も同様の認識である」
港湾労働組合が小池大臣あてに提出した抗議と申し入れの文書に対し小池大臣は発言の撤回と謝罪をするか、という質問に対しては、「二度とこのような発言を行わない」という確約をしたか、という質問に対しては、「小池大臣の発言については、政治家個人のものであり、政府として答える立場にない」と答弁した。
2)安倍首相は、「『慰安婦問題』についての米下院の決議案は客観的事実に基づいていない」と考えるか、という質問に対し、「全体的にいえば、特に、慰安婦問題に対する日本政府の取り組みに対して正しい理解がされていない」と答弁した。
…で、それでどうするのでしょう?
これだけでは、また火に油ではないのかと。
ちなみに、台湾でも15日に、元「慰安婦」の被害者女性と支援者らが、日本の対台湾窓口機関の交流協会台北事務所近くで日本政府による賠償と公式謝罪を求める抗議集会を開き、支援する立法委員(国会議員に相当)らが日本政府に謝罪と賠償を求めるよう、台湾当局に促したとのこと(
読売新聞報道より、魚拓無し)。
追記として。
「『慰安婦』問題に対する日本政府の取り組み」が、客観的にどう見えるかを推測するための参考。
1,東亜日報 2007/4/11より、「
『日本軍、慰安婦を直接拉致した事例多い』 土屋元日本弁協会長が寄稿」
「土屋公献(写真)元日本弁護士協会会長が10日、(中略)朝日新聞に掲載された寄稿で、日本の政界で提起されている再調査論を取り上げ、「徹底した調査に基づかない推論は説得力がない。
公文書に『強制』という内容がないからといって、強制動員の事実がないと断定するのは無理だ」と批判」「『
敗戦当時多くの文書が焼却されたが、各省庁の倉庫に相当量の文書が十分に調査されないまま眠っている』としつつ、『これまで
国会図書館に専門局を設置し、(軍慰安婦)資料を精密調査することを求める提案が国会に何度も提出された。このような提案と関連法案を審議すべきだ』と主張」「『軍慰安婦問題については、国連人権委員会や国際労働機関(ILO)専門家委員会なども数回にわたって解決を勧告した。
中立的な国際機関も『軍慰安婦』問題が解決されたとは考えていない』と強調」「『最近の混乱の原因は、
93年に政府が発表した調査報告と『河野談話』のあいまいさにあるが、その不十分さを逆手にとって談話を揺さぶろうとする人々が登場している』としたうえで、
『政府は調査と聞き取りを続け、『軍慰安婦』および戦時における性的強制の実態を明らかにしなければならない』と主張」
2,季刊「中帰連」第40巻 梶村太一郎氏の「
天日下の涸轍の鮒」より要点のみ引用(引用文中のリンクは引用者により追加)、
「辻元清美衆議院議員が(注;2007年3月)八日に提出した『
安倍首相の『慰安婦』問題への認識に関する質問主意書』に対する、安倍内閣総理大臣による
政府答弁書が出されたのは一六日のことだ。彼女が即時それをHPに掲載したところ、AP通信が引用し『この政府公式見解には『政府は発見した資料の中には、軍や官憲によるいわゆる強制連行を直接示すような記述も見当たらなかった』とあり、強制売春には証拠がないと主張している』と速報した。」
「一七日のオランダの主要紙は(中略)『首相は慰安婦に強制的に売春行為をさせたことを否定する日本政府に立腹している。犠牲者のなかにはオランダ人もいた。この種の発言について過去数週間に何度か説明を求めているのに明確な回答を得ていないので、日本大使の召喚を決定した。首相は『日本政府の最近の方向転換の理由がなんであるのかに非常な関心がある。(新たな否定に)不愉快な驚きを覚えている』と述べた』と伝えた。オランダの首相が激怒するには十分な理由があるのだ。」
「『日本の前途と歴史教育を考える議員の会』が八日に政府に対して提出した『慰安婦』問題での提言書に、次の言葉がある。『(略)軍や政府による強制連行という事実はなかった。一件だけ、ジャワ島における『スマラン事件』があったが、これは直ちに処分されており、むしろ軍による強制連行がなかったことを示すものである』 すなわち、
彼らですら否定することができない強制連行の証拠がオランダ人「慰安婦」に関してあるのだ。このハーグの王立公文書館に眠っていた史料を初めて手にして訳出した日本人は、他ならぬわたしである。」(引用者注;
梶村氏が発見した史料に関する報道の一つ)
「オランダ政府はこれを契機に、膨大な史料を専門家にゆだね、
九四年一月に『日本占領下蘭領東印度におけるオランダ人女性に対する強制売春に関する政府所蔵文書調査報告書』を発表した。いわゆる『慰安婦』問題とは、事実において『日本軍による直接の強制売春でもあった』ことを証明する動かぬ証拠史料である。」
「したがって『発見した資料の中には、軍や官憲によるいわゆる
強制連行を直接示すような記述も見当たらなかった』とする政府答弁は、九三年八月の河野談話以前の言い分であっても、朝日新聞の報道と、遅くともオランダ政府報告書発表後は日本政府としては決して採れないはずだ。」
「史実を広義と狭義にわけて否定する手口は、歴史修正主義の常套手段でもある。欧米社会では、いわゆる『ホロコースト否定』派との論争で、これとの闘いの体験を積み重ねており、一切通用しない恥ずべき、特にドイツでは犯罪のレトリックとして排除される。『広義の強制連行はあっても、狭義の官憲による直接の強制連行の資料はない』とする政府答弁書の立場は、九二年のドイツ連邦政府の議会における答弁『ナチスによるユダヤ人虐殺はあっても、証明されている歴史事実であるガス室での大量虐殺は、命令書など証拠が発見されないため無かったなどとするのが狭義の修正主義である』との定義にそのまま当てはまっている。」
「したがって
一六日の政府答弁は安倍内閣が歴史修正主義の立場を採ることを閣議決定で表明したことになる。」
3、朝鮮新報 2007.7.2に掲載された、朝・日近代史研究家の琴秉洞氏の見解;「
米下院外交委 『慰安婦決議案』可決の意味は何か」
「日本政府内、また識者と言われる人たちは、安倍首相の対応のまずさ、日本の対米外交力の乏しさ、そして昨年11月の米中間選挙での民主党の進出を指摘する声もあるが、はたしてそれだけが問題であろうか。より
本質的な問題点は決議案そのものの内容に明白に出ている。」
「私は次の諸点を問題点とみている。」「
1,安倍政権は
過去の侵略戦争に対し、歴史的事実を認めようとしないし、歴史そのものを修正し、わい曲しようと図っている。
2,
従軍「慰安婦」問題の本質、つまり、人類社会での普遍的な人権侵害、人権蹂躙問題であるだけでなく、日本の恥ずべき国家犯罪にして
国際法違反の戦争犯罪であることの自覚がない。
3,以上2点の具体的発現としては、靖国神社遊就館の展示にみられる
戦争の起因を米ルーズベルト大統領にあるとする論や、3月以降の安倍首相自身の「(資料による)
軍や官憲の強制連行を示す記述は見当らなかった」として「狭義の強制性」否定発言や、業者に責任を転嫁した発言が世界中に流れ、米国の有力紙は拉致問題での熱心さと比較して「2枚舌」との痛烈な皮肉を浴びせられたりした。」
「また
安倍首相を支える政治家や右派言論人の「従軍慰安婦はなかった」大合唱や、決定的にはワシントン・ポスト紙への「広告」問題が決議案可決の背中を押したとも受け取られている。」
「安倍首相は、自分の発言で
米国などから逆な反応が出てきたので、『必ずしも発言が正しく冷静に伝わらない。事実と違う形で伝わっていく現状で非生産的な議論を拡散させるのはいかがなものか』(参院予算委員会、3月9日)と言って、問題の沈静化を図り、『河野談話』の通りとだんまりを決めこむつもりだった。4月の訪米の際もブッシュ大統領に謝罪し、ブッシュ大統領もそれを受け入れる形をとり、このことでソウルの朝鮮日報社説に
『謝罪する相手が違う』と、問題錯誤ぶりをコキ下ろされたこともあった。そして、今度の決議案採択である。塩崎官房長官や安倍首相は、テレビで
『外国の議会で行われたことで、コメントするつもりはない』などと述べている。採択阻止に必死に動き、効を奏さなくなるや、他人事のように言う。この卑劣さには呆れた。」
「この問題で日本に求められているのは、
歴史に真摯に向き合い、元「慰安婦」の方々に心からなる謝罪をし、補償し、その心が慰されるよう誠意をつくす手だてを示すべきである。でなければ、日本は歴史から手酷いシッペ返しを食らうことになるだけであろう。」