仙台市は青森県ではないとはいえ、なんとなくうそ寒い気分を味わいつつ、今日は横浜市のDV調査についての報道が複数出ているのを見かけた。
ひとつは、産経から、「
DV被害、男女とも4割が経験 横浜市調査」。
…「男女とも」が目立つなぁと思いつつ、内容を確認。この報道では『調査は、DVの根絶と被害者保護を目的に策定を目指す「DV基本計画」の基礎資料とするために実施』とあるので、やはり、全国的に調査が行われているようだ。
(略)
アンケートで、配偶者からの暴力を受けた経験の有無について、「ある」と答えたのは男女とも4割で、「何度もある」と答えたのは女性16・9%、男性11・0%。DV防止法について、存在・内容ともに知っていると答えたのは19・9%にとどまった。
相談の有無については、7割以上が相談しておらず、理由として男性は「相談するほどのことではないと思った」、女性は「相談しても無駄だと思った」がそれぞれ多かった。暴力をなくすために必要なことでは、「学校などで子供たちに対して、暴力をなくしていくための教育を行う」がトップで65・8%だった。(後略)
「何度もある」のが女性で多く、「ある」のが男女ほぼ同じぐらい。男性が「相談」していない理由が「相談するほどのことではないと思った」。なんだか、微妙だ。
また、神奈川新聞でも、同じ調査が報道されていた。
(略)
配偶者などに身体的、精神的、性的な加害経験のある人は男性で50%、女性で36%に上った。一方、被害の経験は男性42%、女性43%で、被害後に相談をした人は、男性で8%、女性で28%にとどまった。(略)
調査結果によると、DVの加害経験は、男性の場合、「何度もした」12%、「1、2度した」が38%。類型別では、殴るけるなどの身体的暴力が19%、刃物で脅す、家具を壊す、大声で怒鳴る、長時間無視する、生活費を渡さないなどの精神的暴力が46%、性的暴力が10%だった。
女性側の加害では、「何度も」が10%。類型別で身体的暴力は17%、精神的暴力31%、性的暴力1%。
…引用中断。加害や被害で似た数字をあげて男性女性分を並べ、どっちもどっち的論調にしているように見えてしまうのは、産経報道を見た影響だろうか。なんだか妙な雰囲気に感じてしまった。
実は、先に引用した仙台市の調査は
「せんだい男女共同参画財団」のWEBページで報告の表紙だけ閲覧できるが、内容はWEBで閲覧できないようだった。一方、横浜市の調査報告は、WEB上で閲覧できた。
平成21年7月付の横浜市市民活力推進局・こども青少年局による「
配偶者等からの暴力(DV)に関するアンケート調査及び被害者実態調査(面接調査) 調査結果(pdf)」
調査概要として、2008年10/17ー11/7の期間、無作為抽出された、外国籍の100名を含む満20歳以上の男女3000人を調査対象にした有効回答者数884人の結果という。
回答者は、女性が6割弱とやや多く、年代は20代から70代までを含み、女性で30代がやや多め(女性で23.8%、男性で17.0%)男性の60代がやや多め(女性で18.8%、男性で22.9%)だが、各年代比較的似通った割合の男女比を示しているようには見える。
アンケートは、まずDV防止法の認知度を示し
(あまり知られていなかった)、「性別役割意識について」を調査していた。「男性は仕事、女性は家庭を中心にするほうがよい」という性別役割意識について、肯定が52.4%、否定が46.6%と、ほぼ拮抗しつつ、やや否定が多め。ただし、女性のみだと否定が50.2%、男性のみだと肯定が57.8%と、男性に性別役割意識肯定傾向が強いようだった。
そして、「平手で打つ」をはじめとする「身体的暴力」、「殴るふりをして、おどす」をはじめとする「精神的暴力」、「いやがっているのに、性的な行為を強要する」をはじめとする「性的暴力」など19項目を挙げ、それらを暴力として認識するかどうか
(“どんな場合でも暴力にあたると思う”と“どちらかといえば暴力にあたると思う”の合計)の質問が続く。あげられた19項目は、大抵、暴力として認識されるようだったが、
身体的に重大なケガを生じさせる可能性がある行為については、暴力と認識する人が9割を超えています。一方、“どんな場合でも暴力にあたると思う”と答えた人が5割未満と暴力と認識する人が少ない行為は、いずれも精神的暴力にあたる行為でした。
そして
性別役割意識「男性は仕事、女性は家庭を中心にするほうがよい」という考え方と、「女性は男性のリードに従ったほうがよい」という考え方について、“そう思わない”と否定する人に、身体的暴力にあたる「平手でうつ」行為を “どんな場合でも暴力にあたると思う”と答えた人が多くなっていました。また、同様に、精神的暴力にあたる「『だれの稼ぎで生活できているんだ』などという」行為も、“どんな場合でも暴力にあたると思う”と認識をしている人が多く、性別役割意識と暴力の認識について、関連性が見られました。
産経等の報道にあった「4割」は、その後にあった「配偶者等からの暴力にあたる行為を受けた経験」の記述だろう。
配偶者やパートナーから暴力にあたる行為を受けたことがあったと答えた人(“何度もあった”と“1、2度あった”の合計)は、男女とも4割で、何らかの行為を受けたと答えています。“何度もあった”と答えた人は、女性16.9%、男性11.0%となっており、女性のほうが5.9ポイント多くなっています。
では、次の項目であげられていた、「配偶者等からの暴力にあたる行為を受けた経験」が「何度もあった」、19項目の「暴力にあたる行為」で、男性の被害より女性の被害が倍以上の率であったものを抜き出してみよう。
「平手で打つ」女性3.5%、男性1.0%
「こぶしで殴る」女性3.1%、男性0.0%
「からだを傷つける可能性のある物で打つ」女性1.5%、男性0.0%
「殴るふりをして、おどす」女性5.9%、男性0.6%
「刃物などを突きつけておどす」女性0.9%、男性0.3%
「暴れて、家具や建具などを壊す」女性5.9%、男性0.0%
「壁などに物を投げつける」女性5.9%、男性1.6%
「思い出の品や、大切にしている物を壊す」女性2.6%、男性0.6%
「交友関係や電話を細かく監視し、行動を制限する」女性3.1%、男性0.3%
「だれの稼ぎで生活できているんだなどと言う」女性6.6%、男性0.3%
「必要な生活費を渡さない」女性4.2%、男性0.3%
「いやがっているのに、性的な行為を強要する」女性4.8%、男性1.0%
この他に、男性が被害者としてカウントされていない「避妊に協力しない」と「妊娠中絶を強要する」もある。
他方で、何度もあった&1,2度あったを併せて、女性と男性で同じぐらいか、女性の加害が多そうで目を惹いた項目は、「何を言っても長期間無視し続ける」「大声で怒鳴る・ののしる」だった。
これらが総合された上で、配偶者等から暴力にあたる行為を受けた経験が一度でもある人が、
男女とも4割なのだ。この内訳で、「男女とも4割」を強調されるのは、なんか釈然としない。
一方、これらのDVにあたる行為を受けて「相談した」人は、女性で27.8%、男性で7.8%の結果だったという。そして、相談しなかった理由が、
暴力にあたる行為を受けたことについて相談しなかった理由は、男女とも、“相談するほどのことではないと思ったから”がもっとも多く、次いで“自分にも悪いところがあると思ったから”となっています。この2つの選択肢ついては、男性のほうが20ポイント前後多くなっています。
一方、“相談しても無駄だと思ったから”と“自分さえがまんすれば、なんとかこのままやっていけると思ったから”については、女性のほうが10ポイント近く多く、相談しなかった理由に、男女で差がみられます。
この場合、男性が被害に遭っている場合に、実際に軽い被害だった場合と重くても相談しづらい場合との区別が付かないので、そのあたりへの危惧は生じる。
だが、女性の「相談しても無駄」「自分さえ我慢すれば」の回答は、後からの項目(DVを受けても)「別れなかった理由」をあわせて考えるべきだ。
「別れなかった理由」を、男女差が大きかった項目を抜き出してみよう。
まず、女性に多かった理由から。
「
経済的な不安があったから」
女性35.4%、男性3.6%「もうこれ以上は繰り返して暴力をふるわないだろうと思ったから」女性23.4%、男性10.0%
「離婚(事実婚の解消も含む)にためらいがあったから」女性16.5%、男性8.2%
「
ショックを受けて心身の具合が悪くなり、行動できなかったから」
女性5.7%、男性0.9%そして、男性に多かった理由は。
「相手には自分が必要だと思ったから」女性19.6%、男性48.2%
「世間体が気になったから」女性9.5%、男性15.5%
項目を抜き出しただけで、全体的な傾向が見て取れるだろう。
さて、横浜市の調査では、面接による被害者実態調査も行われていた。市内在住の20歳以上のDV経験を持つ女性で、関連施設で配布されたチラシをみて、「自分の経験をほかの人のために役立てたい」「支援体制の改善に役立てたい、必要な支援について伝えたい」「気持・経験を整理したい」「しゃべりたい、聞いてもらいたい」との動機で、自発的な協力を申し出た人達が調査対象とのことだ。調査から、彼女らは被害をうけた時に
「相手の怒りの表現だ」「自分にも悪いところがある」などと自分を納得させ、やり過ごしていました。このことが、社会における暴力の容認とも関連し、初期の暴力を認識しづらくさせ、その後の被害の拡大につながっています。
という。
“外傷を生じさせる身体的暴力“、“女性をおとしめ、否定したり脅迫する精神的暴力”、“生活費にもこと欠く経済的暴力”、“性に関する自己決定を侵害する性的暴力”など、さまざまなつらい暴力が語られました。特につらいと感じた暴力が、夫への心理的見切りにつながり、家を出るきっかけになった場合もありました。
◇ 「おめぇのせいでおふくろが帰っちゃったじぁねーか!」とドアの鍵、全て閉めて、カーテン閉めて、用意万端にしてぼこぼこにされる。アパートのとき、下の人がよくパトカーを呼んでくれた…。血を流しても、「この一発をやればお前は死ぬ」と、死なないぎりぎりまで…でも、行くとこがないから…。
◇ 言葉の暴力ですね…否定をされるんです。何というんですか、「お前がおかしい」から始まって「お前の親がおかしい」「田舎者が出てくるところじゃない」「常識ない」「主婦失格、母親失格」….考え方を否定されるっていうんですか…。
◇ 「お前は俺がもらったもんだ!」「てめぇ!」「てめぇ!」の言いっぱなし…これはずっと嫌でしたね。
◇ 通帳や印鑑は渡してくれない。(渡されるのは)家賃と光熱水費だけ…。
◇ 避妊に協力してくれなくて…子どもが次つぎ生まれました。体はがたがたです。(人工妊娠中絶2回経験)
◇ 俺の飯はどうなっているんだ、とガラスを割られたり、椅子を投げたり、扇風機を投げたり、携帯(電話)を投げたり、ありとあらゆる物を投げた…閉め出されて家
にも入れないことがあった…(家を出るきっかけは)子どもが『今日はおうちで寝
られる? ご飯食べられる? おうちには入れる』と聞いたことです」
その後にある、「DVと子ども」の項も、読むのはかなりきつい。
ア 子どもの心身の健康や行動に影響を与えるDV
子どもがいる協力者23人全員が、子どもの心身の健康や行動について心配な事柄を語っていました。(略)
(略)
◇ 私の実家にいたとき、子どもが、(私の)父の顔色をうかがうような…父をとても気にしていたので、両親が心配していました。私も、そうだ(両親の心配している
通りだ)と思っていました。自分が(夫の)顔色を気にしていたので…。
(略)
◇ 私以外の人に対してはおとなしいみたい。(子どもは)2人ともすんごく暴力的…もう、殴る蹴る…私に。
(略)
◇ 私は長男に保証人になってもらって家を借りたかったのに、私に「我慢した方が得だ」と言い、夫に電話して私を迎えに来させました。父を見て育ち、父のような性格になってしまいました。長男は裁判のとき、「暴力は母のでっちあげ」という文書を提出しました。
イ 子どもの目の前での暴力
(略)
ウ 夫の子どもに対する虐待的言動
子どものいる協力者23人のうち、21人が、夫は子どもに対して虐待的な言動をとっている(いた)と答えています。夫の虐待的な言動は心理的なものが最も多く19人、次いで身体的なもの14人、性的なもの6人となっています。(略)
(略)
◇ ひどいです。あ-、もう-、かわいそうです。私が横にはり付いていても、間に合わない。3、4回ありました。頭を殴ったり、首を絞めたり…手を離そうとしたときに、口から泡を吹いて…死にかけたんです。
(略)
エ 母子関係の妨害
子どものいる協力者23人のうち22人が、夫による母子関係への妨害に言及していま
す。主な内容は、“子どもの目の前で母親である協力者を侮辱する”、“母子の親密性への嫉妬、”“子どもより自分を優先させようとする”、“経済力の差を見せつける”、“母親と子どもを切り離す”などの行為です
(略)
オ DVがある状況での協力者の子どもに対する虐待的言動
子どもがいる協力者23人のうち18人が、暴力の影響により、子どもに虐待的な言動をとったことがあると答えています。 主な内容は、“ストレスやイライラなどが子どもに向かってしまう”、“子どもの世話をする余裕がない”、“父親の言うことに従うよう子どもに要求する”などです(略)
この箇所は、「DVと子供の項目は、
冒頭で引用した河北新聞の記事にあった一節、
DVの「加害経験がある」と答えた人の傾向を分析すると、子どものころに身体的暴力やネグレクト(育児放棄)の被害を受けた人の割合が高かった。
を併せて読むと、さらに気分が重くなる。
この調査結果を、「
DV被害、男女とも4割が経験 横浜市調査」って、「男女とも4割」に焦点を当てるとは。さすがは、産経の感覚は独創的であると改めて感心したのだった。
なお、途中の文章が、妙に男女の似た数字を抜き出したような、どっちもどっちっぽくまとめたように見えて、なんだかなぁと思えた神奈川新聞だが、こんな風にまとめていたのは好感が持てた。
被害者支援を行っている特定非営利活動法人(NPO法人)「かながわ女のスペースみずら」の阿部裕子事務局長は「潜在しているDVの層の厚さを感じる。女性が別れられず、被害が拡大している背景に母子家庭の貧困問題がある。解決が急務」と話している。